詩 山田亮太(TOLTA)

Poetry Ryouta Yamada(TOLTA)

アトムログ2




あなたはじぶんのかんがえでカメラのまえにたちしつもんにこたえる
おとなではないあなたは
あなたのおとうさんやおかあさんにあなたのかんがえを
しってもらわなければならない
あなたのはなすことばがだれかのきもちやひみつや
まもりたいものをきずつけてはいけない
おとなたちや東京のひとたちやがいこくのひとたちが
あなたのかおをみてあなたのことばをきく
そしてあなたのなまえがしるされる
東京都庁のみえるまちをとおりぬけてぼくにあいにくるひとたちがいます
いえのあかりはじゅんばんにきえていく
ちょうちんのしたテントのしたであまやどりをしているひとたちがいます
このまちにたっているいえはどれもがんじょうで
どんなにおおきなじしんがきてもこわれない
このまちにたっているいえはどれもいちばんあたらしいせつびをそなえているから
たいふうがきてもていでんになってもげんぱつがこわれても
へいきです
それなのに
このまちにたっているいえにすんでいるひとはひとりもいない
だれもすんでいないからこれはいえではなくそして
まちではありません
もやのなかにそびえたつ東京都庁
たくさんとりがとんでいく
このかみになまえをかいてください
いえにかえったらおとうさんやおかあさんにはなしてください
でもいえをなくしたあなたは
おかあさんにいえないじまんばなしをしてしまったから
あなたにはまたひとつひみつがふえるのですか
まぼろしの東京都庁
45かいの展望室から
このまちはみえますか
新宿住宅展示場でまっているぼくのまわりで
ちょうちんのひかっているのがみえますか
あなたにともだちがふえたことも
えいごがぜんぜんわからないことも
はじめてのかれしができたことも
ぼくはおぼえています

短歌 斉藤齋藤

Tanka Saitou Saitou

   あるところに、あたらしい町が生まれ、住民たちが話
  し合いを進めていました。

  町民A「学校や公園をつくるのに、どうやって決めれば
     いいの?」
  町民B「火事になったときの消防の仕事は?」
  町民C「住民みんなの意見をきいて、話し合いで決めま
     しょうよ」
  町民A「それは無理よ、住民はたくさんいるんだから」
     (ざわざわ)

   もんだいは、町づくりをどう進めるかということです。
  町いちばんの物知り、ミントさんが話しはじめました。
  ミント「やあみんな。いまわれわれは自分たちの地域の
     政治を自主的に行おうとしておるわけじゃが、こ
     れを地方自治という。そこでじゃ。この地方自治
     を実際に行っている、東京都のシステムを見習っ
     たらどうじゃろうか」
  町民B「いいねえ」
  町民C「それはいいアイデアだね」
  町民A「わたしもさんせい!」
     (ざわざわ) (1)
背広から生えてる翅が羽ばたいてシロツメクサの先端にとまる

   児童館のプールを隠す壁の上、
   都庁のふたつの頭が見えて
   東京都新宿住宅展示場、ダイワハウス。
  「……最初から中古で買って、5年ぐらい住んで、転勤に
  なったら売る、誰かに貸す、という選択肢もありますね。
  新築で買うと、何年か住んで転勤、誰かに貸す、戻ってく
  る。すると、人の気配がする。じぶんの家じゃない、みた
  いな感覚がある。中古で買うと、その感覚は大丈夫です」

階段を込み入った話おりてくる クローゼットを熱心に見る

  セキスイハウス一階のリビングで、
  まずはアンケートにご記入ください。
  見学したい工程。確保済の土地の有無。ご予算。家族構成。
  実際は(たぶん)これからも、嫁とふたりぐらしの私だが
  アンケートには父を呼び寄せ、ひとり娘とでっかい犬を室
  内で飼い、ふたり目の子どもを迷っている。このまま家賃
  を払い続けるのもどうかと話していたのですが、たまたま
  仕事で通りすがりましてね。

こういうとき嘘が書けないわたくしは祖父の名前をえんぴつで書く

「あ、おなじ斉藤ですね」と斉藤さんが思い浮かべるわたしのかぞく

  ――実際の家と、つくりに違いはありますか?

「構造体は同じ、内装はやや豪華に。クロスの仕上げはちょっと雑です」

  ――ちょっと雑。
  「ええ。なにぶん工期が短いもので」
  ――なるほど。震災のあと、変わったことはありますか?
  「半年ですね、耐震性ですとか、火に強いかといったご質
  問が増えますのは。阪神のときもでしたが、まあ、半年で
  す」
  ――じゃあ、もう今は。
  「はい、今はもう。」

被災地と被災地つなぐ国道に幸楽苑を五、六軒見た

  人の気配がしないというより、
  しない気配がとてもしている。
  築2年の壁紙やフローリングは、
  はたらく人やおとずれる人の立てる埃や震えで、
  真新しくくすんでいる。
  そのくすみと不釣り合いな、水まわりの
  使われることないTOTOの、ホーローの白のまぶしさが
  この家から、何かが引き算されている、感覚をもたらす。
  この家には、いない者がいる。
  幽霊ではなく。この家には
  すでに生まれたこともなく、
  これから生まれることのない、
  あたらしい人が住んでいるのだ。

すべり台の向こうに見える今さん家がセキスイハイムに見える夕暮れ

  あ行の達也が、いちばん好きな景色は
  「家から見える道路」
  と、答えたとき、わたしには
  家から見える道路が見えた。
  それは、住宅街の一方通行の道が
  片側一車線の道にまじわるT字路だけれど
  窓の終わりに断ち切られて、
  道は道へと交わってゆかない
  止まれの止まの右半身が見えている
  わたしに見えるこの道路を、
  わたしは見たことがない気がする。この道路が
  もしも達也の家から見えないのなら
  どの家からわたしはいつか、
  この道路を見るのだろうか?

ありとあらゆる家から見える道路だろう走馬灯のようにかけめぐるのは

  わたしたちの黙祷はなぜ、
  2時46分にはじまるのだろう。
  死のほとんどが津波によるものならば、
  わたしたちの黙祷は、冥福ではなく
  揺れがおさまり、
  津波がおとずれるまでのしずかな時間を、
  彼らがとりもどそうとした些細な生活を
  祈っているのだろうか。
  ひどくしずかな町で
  ある者は加湿器からこぼれた水を拭い、 (2)
  ある者はマネキンに服を着せ、 (3)
  またある者は被害のすくない部屋に籠り、
  ステレオの脚の修理に没頭していた。 (4)
  ある者はそして生きのこり、
  またある者はながされる。
  生きている者に、鳴らなかった防災無線が
  2時46分を告げている。

四分間の激しい揺れはおさまって住宅展示場のようにしずかな

  あたらしい町で
  あたらしい人がとりもどした、しずかな生活に
  キャラバンカーが止まっている
  小雨が降っている
  この町の使えるトイレは
  インフォメーションセンターにしかなく、
  ミサワさん家やへーベルさん家から
  ビニール傘のしずかな町民が、
  ときおり用を足しにゆく。
  なんだろう、あれは黄色いちょうちんが
  ビニールの向こうで、やけににじんで、

お盆って忘れたころにやってきて青海苔つけて輪になって笑う

  ミント「いやいやホープ博士、たいへん勉強になりました」
  ドリー「ほんとうにありがとうございました」
  博士 「お役に立てて光栄です」
  ミント「さあドリー、町に帰ってみんなにおしえてやろう」

  ミントとドリーの町では、さっそく選挙が始まりました。
  議会をつくり、自主的に地域の政治をおこなう準備が進んで
  います。

          【東京都議会】 (5)

わたしたちの一人娘をこの町のセキスイさん家にあずけて 帰る



  (1)都議会紹介アニメ「ホープ博士に会いに行こう!」。
   都議会PRコーナーにて、繰り返し放映。
  (2)東松島市・相沢勝さんの証言。「地震発生時、相沢さん
   は妻と1階でテレビを見ていた。経験したことのない大き
   く長い揺れに驚き、テレビの緊急速報は津波の「襲来」を
   告げていた。2階の長男に声をかけると、『加湿器の水が
   こぼれた。ふいてから行くから先に逃げて』」。
   「AERA 東日本大震災100人の証言」。
  (3) 名取市閖上地区住民の、アンケート回答。
  NHKスペシャル「巨大津波その時ひとはどう動いたか」。
  (4) 名取市閖上、高橋温子さんの証言。「その時ひとはどう
   動いたか」。
  (5) (1)に同じ


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